承認欲求とは――マズローの著書から抜粋
【承認の欲求】
我々の社会では、すべての人々(病理的例外は少し見られる)が、安定したしっかりした根拠をもつ自己に対する高い評価、自己尊敬、あるいは自尊心、他者からの承認などに対する欲求・願望をもっている。これらの欲求は、二分することができる。第一に、強さ、達成、適切さ、熟達と能力、世の中を前にしての自信、独立と自由などに対する願望がある。第二に、(他者から受ける尊敬とか承認を意味する)評判とか信望、地位、名声と栄光、優越、承認、注意、重視、威信、評価などに対する願望と呼べるものがある。これらの欲求は、アルフレッド・アドラーとその後継者によって比較的強調されてきたが、フロイトには無視されてきた。ところが今日では、臨床心理学者と同じくらい、精神分析家の間でもこれらの欲求が非常に重要であるとする考え方がさらに広まっている。
自尊心の欲求を充足することは、自信、有用性、強さ、能力、適切さなどの感情や、世の中で役に立ち必要とされるなどの感情をもたらす。しかし逆にこれらの欲求が妨害されると、劣等感、弱さ、無力感などの感情が生じる。これらの感情は、根底的失望か、さもなければ補償的・神経症的傾向を引き起こすことになる。重症の外傷神経症の研究を見れば、基本的自信がいかに必要であるか、それをもたない人間がいかに無力であるかを容易に理解することができるのである。
自尊心や傲慢に関する神学者の議論、自己の本性に対する虚偽の自己知覚についてのフロム派の理論、自己に関するロジャース派の研究、エイン・ランドのようなエッセイスト、その他もろもろから、我々は自尊心の基盤を、実際の能力、仕事に対する適切さなどではなく、他者の意見をもとに形成してしまうことの危険性をたくさん学んできた。最も安定した、したがって最も健全な自尊心は、外からの名声とか聞こえ、保証のない追従などではなく、他者からの正当な尊敬に基づいているのである。ここにおいても、純然たる意志力、決定、責任などに基づく実際の能力や達成と、自身の真実の内的本性や素質や生物学的宿命などから(あるいはホーナイが提言したように理想科された疑似自己ではなく真実の自己から)自然に容易に出てくるものとを、区別することは有益である。
A.H.マズロー 著 小口忠彦 訳『人間性の心理学 モチベーションとパーソナリティ』産業能率大学出版部刊、1987、P70-71より抜粋